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新卒ITエンジニアの初任給はいくらが適性?

新卒ITエンジニアの初任給について、どのように決定するべきかというご相談を受けることが増えてきました。今回はその背景と、各社で見られる対応策についてお話をしていきます。まず最初に、従来の新卒一括採用と、横並びの初任給についてお話をしていきます。

従来の新卒一括採用の背景

新卒一括採用の歴史を紐解いて行くと1893年に至ります。日清戦争(1894年)、日露戦争(1904年)と度重なる戦争で人材不足になりました。そのため安定的に人材を供給できる供給元として、各学校の卒業生がターゲットとなりました。

人材供給が最優先だったこともあり、在学中に何を学んでいたかは不問という背景に繋がります。入社時には「皆が等しくゼロスタートである」という前提に基づいているため、受け入れ先の企業は長期の研修を実施していきます。

年収を再考する背景

「皆が等しくゼロスタートである」という前提があった時代から、急速に初任給見直しをし始めた背景について整理していきたいと思います。

広がるスキル差

ITエンジニアというキャリアパスがこの20年ですっかり一般化し、子どもたちの憧れの職業となりました。大学在学中にインターンを実施するだけでなく、中学、高校時代にプログラミングを始めていたりするケースもあります。中には高校時点でフリーランスという方も居られます。

私の関わっている会社さんでもこうした早期からプログラミングを実施している方々をインターンなどで受け入れていたりしますが、中途顔負けのスムーズなオンボーディングを達成していたりもします。

また、AI、機械学習、データエンジニアリング領域では、ここ数年で大学が力を入れているために、統合的なデータサイエンスカリキュラム修了者が登場しています。特にAIについてはAIを標榜すると官民から予算を取りやすいこともあり、情報系大学の多くが参入しています。中途で後からこれらの領域を学習して転向された方々と比較すると、統計学の知識や、論文・論文誌採録を通しての確からしさの観点から「新卒が良い」と判断するケースもあります。メガベンチャーの中にはどこの論文を通したのかIF(インパクトファクター)を見ているケースもあります。

人材の海外流出

2022年11月に始まったGoogle、Amazon、Spotify、Netflix、Twitterなどのレイオフですが、それ以前はかなり強気に採用を行っていました。いわゆるGAFAMやIndeedのような大企業のみならず、シリコンバレーのスタートアップなどが強気で採用をしていたため、新卒であっても1000万円、2000万円の内定が出ていました。

こうした企業に合格した人たちの体験記を調べていくと、大学2年頃には就活対策として競技プログラミングを始めるようです。AtCoderで1400点以上が一つの目安となっており、同時並行で英語対策を進めていく流れができています。

長く続いた円安も「円の終焉」「ドルで給与を貰いたい」という話にも繋がっていました。このまま人材流出は為替と共に止まらないのかとも予想されましたが、(執筆している2022年11月末段階では)為替が元に戻りつつあるのでこちらも注視するべきでしょう。

2022年11月のレイオフでは、Amazonのように「コロナ禍でオンラインショッピングが進み、人員を増やしたところ、急激なインフレで人件費が膨れ上がった」というものもあれば、「人材を採りすぎた」「不必要なポジションを採ってしまった」というコメントが出ています。こうした動向は大なり小なりバブル現象にありがちな傾向です。

ある日突然レイオフされるという現実が明らかになった一方、明らかな待遇差による爪痕が日本の採用市場に残ったというのもまた現実です。2022年11月以降、採用市場はある程度沈静化する見込みですが、現実的な範囲で世界を見据えた待遇に落ち着いていくと予想しています。

上がる物価

長らくデフレだった日本経済は固定で問題なかったのですが、ここに来て久しぶりの物価高に見舞われています。低い初任給で頑張れ、というには酷になってきたため、救済策を検討している企業が登場しています。低いままの初任給で行くのであれば、格安の寮を提供するか、実家からのフルリモートワークを検討する必要があるように思われます。

この問題は深く、日本にとって久しぶりのインフレであるため既存の(特に)新卒から昇進してきた人たちからのやっかみに遭いがちです。マネージメントとしてはかなりやりにくい部類の世代間対立問題になります。全体的に上げられればベストですが利益を圧迫する問題なので難しい企業はあるでしょう。

新卒の待遇はどうするべきか

これらの背景に対し、新卒一括採用で過去のまま一律の初任給で据え置くというのは現実的ではありません。市場が読みにくい中途採用や、定着が不確かな未経験層に対し新卒採用に回帰したいという声も聞こえています。自社の将来を担う新卒への待遇はどのように設定するべきか、事例を上げながらお話します。

ベースアップ(初任給を上げる)

GMOインターネットグループが23年度入社組から710万円の年収を2年間保証する制度を発表しました。これによりニュース番組の取材でも、インターンの参加者が前年比で増えたというコメントもされていました。

他にも下記のようにメガベンチャーを中心に高い初任給が提示されています。(24新卒求人票より抜粋)

  • 株式会社ディー・エヌ・エー

    • 基準年俸:5,000,000円~10,000,000円(月次支給 + 年2回の賞与)

  • LINE株式会社

    • 528万円〜

      • 基本給年額 3,900,000円~ 業務手当年額 1,380,000円~

  • 株式会社サイバーエージェント

    • 能力別給与体系

      • 最低年俸504万円~/個々人の能力別に独自の基準で評価

    • エキスパート認定※

      • 最低年俸720万円~/高度な技術や実績、成果をお持ちの方が対象

      • ※技術的スキル、実績、要素技術研究成果、サイバーエージェント社での就業経験が査定対象

  • 株式会社CARTA HOLDINGS

    • 504万円〜

初任給を上げる議論は過去の各社の「新卒1000万円人材」などもありましたが、既存社員との折り合いが課題になります。新卒一括採用に準拠してきた組織であればあるほど、「自社未経験の人材が何故私より給与が高いのか」という問題になりやすいものです。

そうした背景もあってか、日系企業において「私がニュースになった新卒1000万円人材です」と表に出てくることは非常に少ないです。いくつか当該企業内の方にお話もお伺いしたのですが「R&D部門にそういう方が居ると聞いているが誰かは分からない」というように都市伝説のような存在になっているケースが多いようです。

いずれにせよ、既存社員の待遇を見直さなければ既存社員が離反する傾向にあります。特に売上を上げればボーナスが上がる報酬形態の営業職からは、「何も特別な成果を上げていないのに待遇が上がっている」ように見えやすいため、トップが社内説明をしなければなりません。

また、内部処理的に「期間限定で調整給を設定する」というのもよくある手法です。会社都合で別部署、別事業に異動する際になされる施策です。この場合の注意点としては、調整給をどういう形で削っていくかということについての合意があります。本人が成果を上げていった場合、調整給分はバッファとして削られるケースを見かけます。調整給が多すぎると活躍しても長らく給与が上がらないように見えるため不満が募りやすい傾向にあります。

全社のベースアップの着地点として、「みなし残業を全職種に付与して底上げする」という企業は少なくありません。みなし残業が60時間や80時間の企業などは、実態は別としてこうした給与を巡る議論が起きた痕跡だと捉えています。

入社一時金を分割配布する

入社一時期、入社祝い金を配布するというものです。一括配布することが多いですが、企業によっては分割して配布するというケースが登場しています。

この方法の問題点は中途社員や第二新卒には適用しないのかというものがあります。新卒だけが何故優遇されるのか、区別をされてしまうのかという点についての説明をしなければなりません。

選考基準もグレード提示も中途に揃える

新卒と中途の区分は何なのか?ということを考えていくと「統一基準で良いのではないか」という着地をする企業もあります。スキルが高い新卒であるのであれば相応の待遇を提示し、評価グレードも同様にするというもので、合理性は高いと考えています。

この議論の懸念点として「スキル評価は良いとして、行動評価はそのグレードに相応しいものなのか」というものがFAQとして挙がります。ここについての議論の結論の一つとしては「中途採用時もスキルをベースにして見ていることが多く、行動評価については甘く設定している」という現実があります。実際に一緒に働き、プロジェクトを回してみないと評価ができないのが行動評価です。

この方針は、純粋な未経験を採用する場合であってもベーシックグレードからスタートすれば良いだけであり、新卒・中途の区別をせずに公平性もあり、制度面でもシンプルにできるためお勧めしています。

卒業を待たずに入社してもらう

卒業を待たず、時短正社員と同じ扱いで学業と並行して入社してもらおうという動きがスタートアップを中心に拡がっています。特に知名度の高いところではユビーの事例が挙げられます。

新卒・中途の区分をしていませんが、年齢関係なく採用要件を満たすのであれば誰に対しても機会はオープンです。実際、現役大学生も何人か他のメンバーと同様の条件で働いています。

ユビー採用サイト よくある質問より

制度面については社会保険、雇用保険をクリアできれば、あとは就労規則の更新をする程度で済みます。雇用保険の加入については下記の規定になりますので、さほど難しいものではありません。

  • 週に20時間以上働いている

  • 1ヵ月以上(31日以上)働くことが見込まれている

  • 昼間学生ではない

    • 例外は下記

      • 卒業見込証明書を有していて、卒業後も同一の企業で勤務予定

      • 休学中

      • 事業主の指示や承認のもと、大学院などに在席している

      • 通信教育/夜間/定時制の学校の学生

      • 職業安定局長が上記3点に準ずると定める学生

こうしたご提案を各社さんにすると最初は怯むのですが、「大学院進学のために時短にしている正社員」などが居るケースなどもあり、そうした方が居られるのであれば直ちに実行できる内容です。

新卒採用のシーンでは内定者アルバイトの時給をいくらにするかという問題や、内定承諾後辞退を防ぐ施策など、多くの懸念事項があります。これらに悩んで人やお金のコストをかけるくらいであれば、根本解決が図れる「卒業を待たずに入社」というのは極めて合理的ではないかと考えています。インターンの次に来るムーブメントなのではないかと推測しています。

新卒から始まるジョブ型雇用

前述したように、往年の新卒採用シーンでは「新卒は技術・経験共にゼロベースであり、社会人になってから教育をスタートしなければならない」というメンバーシップ型雇用に基づいた前提がありました。そのため、地頭を軸にした採用が一般的でした。

しかし社会で活躍しているエンジニア学生が増えてきた今、メンバーシップ型雇用の前提が崩れています。新卒採用におけるスキル幅が年々拡がっている事情に各社が合わせていくと、いつの間にかジョブ型雇用の萌芽が社内で起きるのではないかと考えています。ジョブ型雇用推進のキッカケにもなり得るのが現在の新卒採用シーンです。是非初任給から考え始めて頂くことをお勧めしています。

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