入社1年で8割が一人前 サイバーエージェントの新卒エンジニアが急成長できる理由
「技術のサイバーエージェントを創る」。2006年、代表取締役社長の藤田晋さんがこう宣言し、同社はテックカンパニーへと舵を切りました。16年後の今、従業員の約4割が技術職。継続してヒットを生み出す競争力の源泉は、エンジニア採用・育成にもあるようです。
サポーターズは、創業以来10年、サイバーエージェントの新卒エンジニア採用を支援してきました。サイバーエージェントが独自に考案した、伸びるエンジニアを見出す採用基準、そして、若手の成長を促すための仕組みとは。常務執行役員(技術担当)の長瀬慶重さんとエンジニア新卒採用責任者の峰岸啓人さんに、サポーターズ 代表 楓が話を聞きました。
新卒エンジニア採用・育成のポイント
社内で活躍しているエンジニアを分析し、独自の採用基準を策定
採用・育成はカルチャーを創るのと同義と認識
圧倒的な成長機会とサポート体制
分析して見えてきた、活躍するエンジニアの共通点
– 学生エンジニアから圧倒的な人気を誇るサイバーエージェント。新卒エンジニア採用において意識していることは何ですか?
峰岸さん 新卒エンジニアの採用は、2008年に32人採用したのを機に年々拡大しています。ここ10年は毎年60人ほど、直近では100名弱の新卒エンジニアを迎えました。
独自の採用基準も設定しています。2018年頃、それまで新卒入社した約600人のエンジニアのうち、社内でめちゃくちゃ活躍している人の特性を分析したんです。すると、4つの共通点が見えてきました。
技術に関する知的好奇心が旺盛
スポーツでも遊びでも何かをやりきった経験がある
チームワークを大切にしている
オーナーシップがある
過去には技術力を重視していた時期もあったのですが、それからはこの4つを大事にしようと決め、本当にそれだけを見ていました。足元の技術だけで判断しないよう、技術テストも止めました。その代わり、面接は5回やってコンピテンシーをしっかり見るようにしました。
2年後、離職率が劇的に下がったんです。改めて実感したのは、採用はカルチャーを創るのと同義だということ。サイバーエージェントには人を育てるカルチャーが根付いています。だからこそ、挑戦の機会を与えれば成長し、中心的な活躍をするようになる。採用と育成がうまく噛み合ってこそ、今があるのだと思います。
最近も、採用基準にマッチする素晴らしい学生が受けてくれました。でも、不思議なことに他社の選考では落ちてしまう学生もいるんですよね。超優秀だとか、ずば抜けて技術力が高いとか、企業は学生に多くを求め過ぎている気がします。新卒エンジニアは、いかに育成するかが大事で、即戦力だけを求める必要はないんです。
ポテンシャル採用でも技術力が上がっている理由
長瀬さん 「学生のポテンシャルを見る」と言いながら、実は技術力も上がっているんです。事実、入社1年で8割弱が、エンジニアとしてほぼ一人前(※1)になるんです。
その理由の一つは、若手を重要なポジションに抜擢していることにあると思います。ヒリヒリするような決断や技術的チャレンジなど、圧倒的な成長機会を与えることが、彼ら・彼女らの成長につな繋がっているのです。
例えば、競輪・オートレースなど公営競技のインターネット投票サービス「WINTICKET」の開発リーダーに抜擢されたのは、新卒1年目のエンジニアでした。また、今年4月のグループ総会でベストエンジニア最優秀賞に選ばれたのは、新卒3年目のエンジニアでした。彼は今、2つの新規事業でテックリードをしています。
また、こうした経験を本人たちが積極的に発信することで、「サイバーエージェントは若いうちからチャレンジして活躍できる」というブランディングにもつながっています。今では若手の裁量や挑戦しやすい環境を決め手に入社してくれる学生が多いです。
若手の育成を後押しする評価制度
– 人を育てるカルチャーを浸透させるためには、サポートすることが評価されるような制度設計も重要ですよね。
長瀬さん 評価制度には「こうあってほしい」というメッセージを詰め込んでいます。サイバーエージェントでは、評価制度の中に、「オーナーシップ」と並んで「フォロワーシップ」を入れています。チャレンジする人をサポートすることも評価されるんです。先ほどの「WINTICKET」の場合は、開発リーダーに抜擢された新卒1年目のエンジニアを、30代のエンジニアたちが一丸となって支えていました。
また、育成というと「先輩社員が後輩社員に教える」というイメージがあると思いますが、そうとも限りません。新卒1、2年目のエンジニアがベテランエンジニアのレビューをすることもあります。サイバーエージェントでは、ミッションステートメントの中で年功序列を明確に禁止していますが、役職だけではなく、本当の意味で年功序列がないんです。
さらに、サイバーエージェントには、特定分野の第一人者として実績を上げているエンジニアに新たな活躍の場を提供し、その分野の発展と社内に還元することを目的とした「Developer Experts制度」があります。講演、執筆、コミュニティ活動など、社外活動も評価に組み込むことで、結果的に、その分野におけるサイバーエージェントの存在感が増し、関心のある学生にアピールすることにもつながっています。これには若手も「この分野のエキスパートになりたい」と積極的に手を挙げています。
既存のエンジニア像を取っ払わないと、エンジニアも会社も生き残れない
– サイバーエージェントは、エンジニア自身が主体的にキャリアを築いていける土壌があるのですね。
長瀬さん これは、今年4月に入社した新卒エンジニアにも伝えたことですなのですが、5年後、遅くても10年後には、技術と何かを掛け合わせてバリューを発揮できるようなエンジニアでないと生き残れないと思うんです。
例えば、サイバーエージェントの広告領域では、エンジニアが事業戦略を考え、AIを活用しながら事業を推進しています。そういった越境人材が増えてきているんですよね。とにかく可能性を削ぎたくないんです。既存のエンジニア像みたいなものを取っ払って、マーケティングが好きならやってみればいいし、経営に興味があるなら挑戦してみればいい。そうしないとエンジニアも会社も勝ち残れないと思っています。
新卒エンジニア採用・育成は、未来を創る仕事
– 3年前、サポーターズが未来の技術者を育てる「技育プロジェクト」を始めたとき、サイバーエージェントは真っ先に協賛社として手を挙げてくれました。それはなぜでしょうか?
峰岸さん 私が新卒エンジニア採用を始めた頃、韻を踏んで「培養・採用・育成・覚醒」をスローガンに掲げたんです。採用だけでは厳しいので、エンジニア学生を増やす「培養」をしていかなきゃいけないって。でも、それを私たち1社だけで実現するのは難しい。そこで、「技育プロジェクト」への協賛という形で、エンジニア学生を育てる活動に協力しています。
長瀬さん 「技育プロジェクト」は、お話をいただいた瞬間、「100%協賛したい」と思ったんです。私自身、同じ理念で活動しているところがあって。
私が「BIT VALLEY(※2)」プロジェクトを始めたのは、採用活動で地方の大学を訪れた際、東京と地方でエンジニア志望の学生の情報格差、機会格差を実感したことがきっかけなんです。地方は圧倒的に情報量が少なく、ITはものすごく難しいものだと思いこんでしまっている学生もいる。サポーターズはものづくりの経験を通して、そこに風穴を開けようとしていますよね。私たちも、2018年に開催したテックカンファレンス「BIT VALLEY 2018」では、地方の学生向けにスカラシップ枠を設け、120人が参加してくれました。
他にも、毎年プログラミングコンテストの審査員をしていて、「今の小学生ってこんなにすごいんだ」と、刺激を受けています。とにかく、日本の未来ってそこじゃないですか。
新卒エンジニア採用・育成は、苦しいことより楽しいことのほうが多いです。だって、新しい仲間と一緒に会社を創っていくことに他なりませんから。自己実現と会社の成長、そして、日本の未来に貢献すること。それに比べたら、正直、細かい苦労話はどうでもいいですよ(笑)。
※1 エンジニアとして一人前:サイバーエージェント社内のグレード制度において判断される。
※2 シブヤ・ビットバレー:90年代後半、渋谷にITベンチャーが集積し、「シブヤ・ビットバレー」と呼ばれて一大ブームを巻き起こした。20年後の2018年、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、GMOインターネット、ミクシィのIT大手企業4社が組み、「BIT VALLEY」プロジェクトを発足。長瀬さんはその仕掛け人でもある。
・・・