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新卒エンジニア採用におけるポテンシャル採用

これまで新卒ITエンジニア採用において、新卒上位層と呼ばれる在学中にプログラマとしてのアルバイト就業経験があったり、長期インターンをしている人たちに対する採用合戦が展開されてきました。しかしここに来てポテンシャル採用についても拡がりが起きています。freee社では2021年にプログラミング未経験者を対象にしたサマーインターンを受け入れを実施したり、サイバーエージェント社では新卒エンジニア採用で技術試験を廃止し、のびしろを見ていたりします。新卒エンジニア採用におけるポテンシャル採用についての背景と、ポテンシャル採用時に見るべきポイントについて過去の成功と失敗を踏まえながらお話をしていきます。

ポテンシャル採用が拡がる背景

2022年11月以降の不景気により、外資ITやメガベンチャーの中途採用の動きが渋くなっています。しかし大手スカウト媒体や人材紹介各社によると中途採用の有効求人倍率が下がっているわけではなく、外資ITやメガベンチャー以外の求人がむしろ増えているようです。

激化する中途即戦力層採用では、同時にELTV (Employment Life Time Value) が話題になっています。中途採用ではスキルやカルチャーのミスマッチや、強気で採用を継続する外資コンサルの高額年収提示を前に短期離職が起きやすく、採用コストに対するバリューについて疑問視されています。

一方、日本国内では少子高齢化が止まらないため、日本企業各社では長期視点での若返りのため新卒採用に回帰をしています。第二新卒採用が一時期は脚光を浴びていましたが、最初からフリーランスを目指していたり、最初のITエンジニア職を踏み台と考えているヒトが少なくなく、1ヶ月~1年未満の離職が多いことから育成コストで収支がマイナスになるという問題があります。

こうしたことから「前職」という比較対象がないことによるカルチャーギャップが少ない新卒採用については、より一層の需要の高まりが見えています。しかし新卒であってもインターンや企業でのアルバイトエンジニアの経験者といった新卒上位層の採用は、各社が提示年収を上げながら競り合ってくるので採用難易度は非常に高いです。

その一端としてみられるのが高専卒生です。従来の高専生は地元有力企業に教員からの推薦で就職を決めることが多くありました。しかしここにきて、都内企業の高専へのリーチが非常に多く発生しています。高専へのコンタクトだけでなく、高専生本人にハッカソンイベントやオンラインイベントなどで接触しているため、アンテナの高い高専生が教員に頼らずに就職先を決めるようになりました。新卒上位層の人気が高まり競争率が高まった結果、メガベンチャーなどでもポテンシャルエンジニア採用が始まっているという状況に至っています。

次にポテンシャル採用の観点についてお話をしていきます。

ポテンシャル採用についての観点

特段システム開発の経験が無い未経験採用は2018年以前は一般的に行われていました。異業種からの転職の場合、年収は下限に近い230万円スタート、長時間残業を暗に求められながらOJTをベースに育つことが求められるという過酷なものでした。獅子の子落としのような話で残る人は多くはありませんでした。このやり方はなり手が多く、採用コストも掛からず、放っておいても後続が入社する場合にのみ成立できる手法です。少子化が顕在化した現在では成立しませんし、過酷な労働環境も強制できない風潮です。その観点からも少しでも素養がある人を採用し、育てるという仕組みが必要です。

プログラミング経験者ではないために選考時点でのスキルジャッジは時期尚早としても、実際問題として明確な素養としての向き不向きはあります。また、カルチャーマッチの観点も中途ほど凝り固まっては居ませんが見る必要があります。

悩ましいポートフォリオでの判断

未経験の場合、ポートフォリオ(自主制作物)をソースコードと共に提出して貰って技術力や適性を判断するということがここ数年流行っていました。しかしここ数年、下記のような事象が起きており、ポートフォリオベースでの判断が難しくなっています。

  • プログラミングスクールでのコピペで完成するポートフォリオの氾濫

  • GitHubや各種ブログによるソースコードの入手難易度の低下

  • メンターサービスの一般化

  • ChatGPTに見られるソースコードのAIによる生成

こうした事象に対し、ポートフォリオ提出を求める価値が揺らいでいます。「ポートフォリオを出せば採用して貰える」というインターネット上の情報に従った候補者と、「どこまで本人が書いたのかさっぱり分からない」という企業のギャップが年々広がっている状態です。ポートフォリオが提出された場合は、ソースコードを候補者と共に見ながら「なぜこのような書き方をしたのか」という質疑応答とセットに実施する必要があるでしょう。

このような状況を考えると、ポテンシャル採用に振り切るのであればポートフォリオ提出を求めるよりも、それ以外のもので判断した方が建設的、かつ効率的ではないかと考えています。

適性検査

現在市場には数多くの適性検査サービスが存在しています。この中から自社にフィットする適性検査を見つけることが必要です。

本契約前にお試しできる検査は多いため、既存社員に受けてもらうことをお勧めします。その結果を見て自社にて活躍している人材の傾向を発見するのです。いくつかの適性検査では自社社員の結果を踏まえた「自組織へのマッチ度」も算出されるため、参考にすると良いでしょう。

新卒を想定した今回のコンテンツでは余談となりますが、適性検査によっては四則演算やパズルといったIQテストのようなものがあります。一般的に年齢を重ねた方が不利になります。新卒と中途経験者で採用時の適性検査は分けて考えることをお勧めします。

論理的思考力のチェック

未経験者を育成する上で下記の2点が重要となります。

  • 積み上げて考えられるかどうかということ

  • 何が分からないかを言語化できるかということ

一カ所詰まったら全てリセットしてゼロから書き直しをしたり、質問があっても「何が分からないか分かりません」と言われる状況が非常に厳しいです。

私がポテンシャル採用を見る際、「アルゴロジック2」というJEITA(電子情報技術産業協会)が公開しているサービスを用い、論理的思考力を確認しています。順次処理、繰り返し処理、分岐処理をブロックの並び替えによって実現しているものであり、積み上げて思考できるかどうかを見られると考えています。30分ほどの時間で画面共有をしながら回答して貰い、詰まった場合はどこが分からないかを質問することで育てられるかどうかの企業側の心づもりも含めて判断すると良いでしょう。

リーダーシップ発揮経験の有無

純粋な技術力については前述したポテンシャルで判断し、入社後の育成によって伸ばして貰うとして、それ以外の長所については選考時に把握して加点しておきましょう。特にお勧めしたいのが近年レアリティが増しているリーダーシップ発揮経験です。

楽天オーネットが毎年600名に実施している「新成人意識調査」には、仕事意識のアンケート項目が存在しています。「会社の中では出世したいjという設問では、2006年の20歳では62.0%が「はい」と回答しましたが、2008年には35.8%、2010年には32.9%、2015年には25.7%まで低下します。この変化が起きた原因として、1992年に小学校教育が「新学力観」に基づく個性尊重教育にシフトしたことが考えられます。それ以上の世代では「集団で何かを達成する」ということに重きが置かれていたため、リーダーシップ発揮シチュエーションがそれなりに存在していました。しかしこの世代ではそうした経験を避けることができているため、出世することに価値を感じていないようです。若手を中心に起きている事象として「出世を打診したら退職の相談をされた」という事象を複数耳にしています。

従ってリーダーシップ経験があるということは、ポテンシャル採用においても大きな加点対象となります。しかし単純に「リーダー経験はありますか?Yes or No」という質問では不十分です。ここでお勧めしたいのはPBI (Performance Based Interviewing」の要素を用い、回答の良い・悪いについて共通の認識を持てるようにプロセスを標準化することです。質問内容としては、United States Department of Veterans Affairsを和訳し、カスタマイズしたものを利用しています。過去の振る舞いや実績に基づき、何故それをしようと思ったのか、誰とやったのか、自分はどこを担ったのか、その結果どうなったのかといったところを体系だって質問します。具体的には下記のような質問があります。

  • 組織目標を達成するために、チームで動いた経験を教えてください。チームメンバーはどのように協力してくれましたか?結果はどうなりましたか?

  • 組織のパフォーマンスを自ら責任を持って向上させた経験を教えてください。
    -- どのようにアイディアを思いつきましたか
    -- どのように実行に移しましたか
    -- どのようにメンバーが変化に対応しましたか
    -- どのように効果測定をしましたか
    -- 振り返ってみて今ならどのようなポイントを変えてみたいですか

これらの回答に対し、社内の既存メンバーと比べながらどうかを評価していくことをお勧めしています。

入社後の教育制度

教育制度が整っていない企業では、OJTが一般的ですが、新卒の場合は手厚く時間を確保して研修期間を設けることをお勧めします。新卒上位層であっても研修制度を求める方が増えており、「ベンチャーなのでそんなものはありません」というのは新卒候補者にはウケなくなっています。内定辞退になるケースも確認されています。

新卒メンバーに対し、「あなたたちを育てる準備がありますよ」というアピールでもありますので、一定の研修期間は望まれます。ITエンジニア研修の外注も含めて検討することをお勧めします。純粋なスキルだけで無く、社会人ITエンジニアとしてのマインド設定も各社揃えていますので、自社が新卒ITエンジニアに求めるエッセンスを言語化し、取り組んでいきましょう。

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