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ITエンジニアの新卒採用をする理由

サポーターズ エバンジェリストの久松です。他に合同会社エンジニアリングマネージメントにて社長兼「流しのEM」として複数企業で組織づくりなどを担当しています。本noteでは、新卒エンジニア採用に関する「よもやま話」を月1ペースで発信して参ります。

前回のコンテンツでは、24新卒ITエンジニア採用マーケットについてお話しました。決して安くはないという感覚が伝わればと思います。

ある程度まとまった採用コストがかかるため、企業内予算獲得のためには「新卒採用をする理由」が必要です。今回は「なぜ自社では新卒採用をするのか」ということについてお話します。

中途採用を巡る状況の変化

まず最初に中途採用を巡る状況を整理していきます。分かりやすく採用コストとそのペイについて見ていきましょう。

有効求人倍率の増加と採用コストの増加

2022年5月の日経新聞では、doda調査を元にIT技術職の転職希望者に対する求人数の割合が10倍に達したという記事が話題でした。業界を問わずITエンジニアの必要性が高まっているため求人数が上がっているという背景があります。よく見ていくと本社と子会社で同じ求人が上がっているケースも少なくなく、求人倍率が自グループ内で上げているようなケースもあります。

より自社の採用状況と照らし合わせるためにはプログラミング言語やスキルセット、経験などで絞り込んだ状態で分析する必要があります。下記の@ITでは、レバテック調査を元にPythonの有効求人倍率が53.1倍であったという記事が話題でした。

このような高すぎる有効求人倍率に対し、待遇合戦が起きています。2015年までであれば「他社より低い条件を提示し、やる気のある人物を中途採用する」という一種のやりがい搾取のような形でも採用可能でしたが、買い手市場の現在では通用しない状態となっています。

また、2022年2月のギークリーの発表では、中途人材紹介会社のITエンジニア人材紹介フィーが40%が下限になったという発表がなされていました。現在の動向としては大手人材紹介会社の多くが捌けないほどの求人を抱えており、40%でも応対はしてくれないという状況です。50%で応対してくれる場合もあれば、「いくら積まれても応答できない」「未経験ならどうですか?」などと言われる状態です。

このように求人倍率、採用コストともに右肩上がりの状態です。しかしこうして大枚を叩いた人材が定着し、活躍できるかというのが次の問題となります。

カルチャーミスマッチによる定着の課題と採用コストのペイ

人材の流動化が進むITエンジニア採用では短期離職が課題になっています。

実際にある事例としては、人材紹介会社から年収600万円で紹介フィー50%のレートで入社が決まった場合、人材紹介会社に300万円払わなければなりません。SIerやSESといった人月商売の場合、月当たりの人月単価は固定なので、例えばその人月単価から10万円ずつ300万円の採用コストを消化していくとすると30ヶ月かかります。しかし現在では2年程度で辞める人材は一般的になりつつあります。2年(24ヶ月)在籍してくれた場合は6ヶ月分の60万円がマイナスになります。利益率によっては収支的に採用しなければ良かったという結論になります。

加えて3ヶ月や6ヶ月といった短期離職のケースも珍しくはないため、人の採用コストが事業リスクになることもあります。

少子化であっても一周回って期待が高まる新卒採用

このように中途採用の難しさを元にお話をしてきましたが、それが新卒採用ではどのようになるかについてお話していきます。

私自身、IT企業だけでなく老舗日系大手企業のお客様のところでも新卒採用に関わっていますが、少子化が叫ばれる昨今であり母集団は減っている状況ではありますが、それでも中途採用よりは良いケースがあると感じています。

スキルセットへの上昇と、研修コストの低下

前回コンテンツでもお話しましたが、現在は新卒であっても全くプログラミングをして来なかった層というのは減少傾向にあり、研修コンテンツを減らすことも可能なケースが出てきています。業務用プログラミングとしてのセキュリティやリテラシー、チーム開発に纏わるコンテンツを中心に組むことになります。

プログラミングを用いた長期インターン経験者であれば、実務経験も持っています。こうした層にアプローチできれば即戦力としてカウントも可能な状態です。

既に在学しながらITエンジニアとして正社員雇用されているケースも見られます。母集団形成を高度に実現できれば、中途と同じ評価制度、給与制度で問題がないと言えます。

定期的に、安定的に採用できる

現在の中途採用シーンでは、採用目標人数こそ数十名という会社さんは多くあるのですが、ごく一部の採用コストを非常にかけている有名企業さんを除くと、例え数名でもまとめて推薦してくれるチャンネルは存在しない状態です。

これに対し、新卒であれば必ず毎年卒業するため、まとまったビジネスへの新人進出が発生します。採用要件が著しく高くない限りはまとまった選考が期待されます。

コロナ禍が落ち着けた、高すぎた採用バブル

コロナ禍以前、加熱し過ぎた新卒採用シーンでは、交通費支給、宿泊費支給の給与支給インターン・ハッカソンから始まって、焼肉や寿司による囲い込みなど、接待による内定承諾アプローチなどバブル期の様相を呈していました。費用対効果が著しく悪い状態でした。一定の費用を投下しても、それを上回る企業があるため、渾身のサマーインターン企画からの採用が0人で「一夏の思い出の提供」に留まったこともあり、新卒採用の母集団形成を変更したこともあります。

しかしコロナ禍によりリモート採用が拡がった結果、こうした高過ぎる接待施策が大幅に減少しました。その点からもよりフラットに意思決定をしてもらえるようになりました。

カルチャーフィットがしやすい

日系大手企業における中途採用の場合、他社ITベンチャーなどからの転職を狙うと下記のような難しさがあります。

  • 終身雇用、年功序列を元にした「定年まで働ける体制」に対する提示金額の見劣り

  • 安定と引き換えにした派手さにかける企業イメージ

  • 昭和を感じる企業文化

  • 挑戦や圧倒的成長を期待する層の期待に反する残業制限

こうした要素はITベンチャーからの候補者には魅力に写りにくい傾向が強くあり、カルチャーギャップへと繋がります。しかし新卒であれば比較対象が多くのケースでは存在しないため、フラットに判断して貰える傾向にあります。

また、大手企業や老舗企業、地元での有名な企業であればオヤカク(親への就業確認、親の許可)が通りやすい傾向にあり、スタートアップやベンチャー企業に比べるとむしろ優位に立ち回ることができます。

研究室、学生団体によるリファラル採用への期待

入社後に期待できるのが当該新卒が在籍していた研究室や学生団体に挨拶に行き、採用経路として繋がることも重要です。特に研究室との繋がりは毎年採用がまとまって存在する企業でないとなかなか実施できません。さらに就職課となると更にハードルが上がるため、大手企業でないと接触できないケースもあることから、若いITベンチャーには真似できない手法と言えます。

学生団体によっては企業が「活動費」を支払うと、LT(ライトニングトーク)大会に参加でき、学生と接触することができるものがあります。ここからインターンや採用に繋がることもあり、費用対効果が良い採用チャンネルとなることがあります。

今、敢えての新卒採用

少子化ではありますが、それを上回る中途ITエンジニアの求人倍率であるため、一周回ってお勧めできる母集団となってきました。

即戦力新卒が採用できた場合でも、行動、社会人としてのマインド面など、企業である程度の育成体制は必要です。しかし中途採用であっても技術、行動などが未熟なケースは多く見られるため、究極的には中途と同じ接し方や評価制度で良いと考えています。

一時期の新卒採用バブルも収まっていることから、採用チャンネルの一つとして検討することをお勧めします。

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