毎日10TBのデータを処理する大規模広告配信プラットフォームに知的好奇心で挑むエンジニアたち。自分で考え、能動的に取り組む人を育むマイクロアド
広告配信プラットフォーム事業でWeb広告業界の最前線を担ってきた、株式会社マイクロアド。現在は「Redesigning the Future Life ~データとテクノロジーで未来を予測する〜」を掲げ、データプラットフォーム、広告プラットフォームを提供しています。
同社のエンジニアは、B2Bサービス、Web広告やマーケティングに関わるプロダクト開発に取り組んでいます。毎日・毎分・毎秒、凄まじい量のデータを処理するプラットフォームの目覚ましい働きは、ログや数値でしかキャッチできないため、探求心や知的好奇心を持ち、物事を順序だてて考えるタイプのエンジニアが活躍できる領域。仕事の楽しさ、エンジニアが組織づくりを率先して行う独特の文化について、株式会社マイクロアドのテックリード大澤昂太さん、チーフエンジニア高橋雄太さんに、サポーターズ代表の楓が話を聞きました。
新卒エンジニア採用・育成のポイント
情報系専攻の経験がなくても適性を見極め、採用することも
学生時代に触れる機会が少ない分散処理システムを学べる環境
開発体制も組織づくりもエンジニアが自ら考え自ら取り組む
データ領域が強みだが、人材採用は情報系以外や文系出身者も
― 御社は創業以来、Web広告配信サービスを手掛けていますね。
高橋さん 2004年に事業をスタートしてから長らく広告配信プラットフォームがメイン事業でしたが、さらにデータを活用した2事業を展開しています。「データプロダクトサービス」と「コンサルティングサービス」です。データプロダクトサービスは、各業界に特化したデータを分析して消費者の行動を予測し、見込み顧客への広告配信の実施、結果とその分析の提供を行うというもの。またコンサルティングサービスは、メディア企業の広告収益を最大化するコンサルティングと、台湾を中心とした海外におけるデジタルマーケティングサービスという2軸で進めています。
大澤さん 広告配信には、広告を出したい広告主や代理店向けの広告配信プラットフォーム「DSP(Demand Side Platform)」と、広告を出して欲しいユーザやメディア企業向けの広告収入を最大化するプラットフォーム「SSP(Supply Side Platform)」がありますが、当社では両方を自社サービスとして持っています。特に「DSP」に関しては業種特化が当社の特徴です。例えば自動車業界向けとか医療・製薬業界向け、コスメ・美容業界向けというように各業界に特化したマーケティングプロダクトを提供しています。
※マイクロアドの各プラットフォーム名:広告配信プラットフォーム「UNIVERSE Ads」/ 媒体社の広告収益化プラットフォーム「MicroAd COMPASS」
― データ領域が強みの企業というと、データサイエンスを研究してきた大学院卒の人材が社内に多いというイメージですが、御社もそうですか。
大澤さん 当社のシステム開発エンジニアの担当領域は、機械学習、アプリケーション、サーバーサイドと3領域に分かれていて、その他にデータアナリストがいます。機械学習が専門のエンジニアは確かにこの分野を研究してきた大学院卒の人が多いんですが、それ以外のエンジニアは、採用条件に「大学院卒」「情報系専攻」を設けているわけではなくて、当社が求める人材像に合った人であれば、情報系以外の理系や、文系出身者で独学で情報系の勉強をしたという人も採用しています。実際、高橋も学生時代は情報系専攻ではなく、物理学専攻でしたし。
未経験入社で社内留学制度を経験して、目標が定まった
― 高橋さんはなぜマイクロアドに入社し、どんなふうに成長してきたんですか。
高橋さん 当社の機械学習の担当部署に物理学出身の先輩がいたのと、自分でも何となくデータ領域の仕事をしたいという気持ちがあったので、入社を決めました。そこで私もまず機械学習からスタートしたんですが、当初プログラミングのスキルがあまりないし、自分がどうやってキャリアを積んでいけばいいのかわからなくなってしまって。そんな時にサーバーサイドエンジニアを経験して、面白そうだなと思い、目標が定まりました。
― 未経験で入社して、心折れずに成長できたのには何か理由があるんですか。
大澤さん 高橋が機械学習の領域からサーバーサイドの領域へと移れたのは、当社に社内留学制度があるからです。異なる領域のチーム間で、本人の希望があれば人材交流を行っています。異なる領域を1、2ヶ月試してみて、大概はまた元の部署に戻るんですが、その間に高いパフォーマンスが認められれば希望次第で異動できるという制度です。
― 大澤さんの客観的な視点から、高橋さんにどういう素養があったから、このような異動が成長につながっていったと考えていますか。
大澤さん 高橋の場合は、本人の興味・関心の幅が広いことと、もともと物理学出身なので“UIのないシステム開発”への適性があったことだと思います。
UIのないシステム開発とはどういうことかと言うと……Webサービスのサーバーサイドエンジニアは、最終的にはユーザーが触れるアプリや画面を作るので、プロダクトが目に見えて成果もわかりやすいんです。けれど広告配信プラットフォームとなると、ほとんどの過程が目に見えない。例えば、データベースに重要なデータが蓄積されていても目に見えるわけではないし、「この広告のオークション(※Web広告に対して行われるユーザーアクション、例えばクリックやインプレッションなどに課金される仕組みのこと)が当社の売上につながっている」とわかっていても、オークションの実態はデータ上とかログ上でしか確認できません。
研究というのはもともと、データを可視化して初めて成果へと繋げていけるものですが、実際にやることは理論的にいろいろ考えて、それを試し、検証し、成果を出すことです。広告配信プラットフォームのサーバーサイドエンジニアもよく似ていて、物理学出身の高橋は成果を出し、達成感を感じることができるんだと思います。
仕事から得られるのは知的好奇心が満たされる喜びと達成感
― なるほど。高橋さんは、ご自身が物理研究で培ったどんな能力が、御社の仕事に活きていると感じていますか。
高橋さん 物事を順序だてて考えるところです。私が担当している開発は、コードを書いている時間より、それ以外の時間のほうが長いんです。つまり、どういうものをつくるのか、どうやったら仕様を満たしていることを確認できるのかということを、1つずつ噛み砕いて考えていく必要があって、そういう点は物理学的な素養とつながるところがあると思っています。
― 高橋さんが仕事の中で「テンションが上がる」と感じるのはどういう時ですか。
高橋さん きれいなテストケースができた時です。「今までだったらこうはできなかったけれど、経験を積んだおかげで今回は無駄なく、漏れなくできたな」と感じて、テンションが上がります。
― まさに知的好奇心が満たされることに喜びを見出している感じですね。他に広告だからこそ知的好奇心が満たされるというポイントがあれば教えてください。
高橋さん Web広告を配信した場合、クリック数やコンバージョン数で結果を測れるので、そもそも非常にわかりやすいんです。機械学習の場合、そこでアルゴリズムを変えたらダイレクトに数字にも変化が現れるので、そういう時は面白いと思います。
大澤さん Web広告はデータのトラフィック量がとても多いんです。多くのWebサービスは自社で取り扱っているアクセス数を対象としていて、オーソドックスなアーキテクチャでさばけるデータ量なんですが、Web広告となるとそうはいきません。営業サイドからは、「こういうターゲティングを実現したい」「こんなタイプのデータを出したい」といった要望が来るんですが、例えば1つの課題を解決するのに、サーバー1台では賄えず複数台用意します。それらのサーバーを協調動作させる必要もあります。サーバーの台数を増やすとコストがかかるので、いろいろ考えて、実は少ない台数でこの仕様が満たせるという結論にたどり着いた時、面白みを感じます。
それと、Web広告のプロダクトは5年、10年と長期に運用されることが多いんです。当社でアプリケーション開発を担当するエンジニアたちは、設計にこだわっています。初期の頃の設計の差が、後々活きてくるということがよく起こりますから。
オークション数は毎秒4万6000回以上、凄まじいデータ処理量
― B2B、しかも広告配信のシステムは相当しっかり設計する必要があるということですね。その精度の高さや完璧を求めるところは確かに研究に近いように思います。
大澤さん 設計にこだわるのは、広告配信サービス特有の理由もあります。1日にものすごい回数の取引が発生するのは広告配信サービスならではで、例えば当社の場合、1日のオークション数が40億回。1秒当たりにすると4万6000回以上。データ処理量は1日10TBにのぼります。オークション1回ごとに課金されるわけですから、プロダクトの品質次第では1日で数万円から数百万円を失ってしまうこともあります。その為、品質を高めることが出来るScalaなど関数型言語を使って、設計にこだわって開発しています。
― 御社で使っている技術で、学生にとって魅力を感じるのはどういうものですか。
大澤さん よく使われているプログラム言語だと、Python、Scala、TypeScript、Java・Kotlinなど。あと、KafkaやHadoop・Sparkなど分散処理システムを使いますが、これなどは学生時代にあまり触れる機会がないものかと思います。こういったものも入社してからは当たり前に使えるようになります。
「自己組織化」体制により、開発も組織づくりも現場主導で
― 探求心、知的好奇心のある方が、いろいろ学べる環境ですね。こうした技術的環境のほか、エンジニアの成長に大きく結びついているのが御社特有の「自己組織化」という体制ですよね。
大澤さん 「自己組織化」は、もともと課題解決のスピードとクオリティを上げるために行うようになりました。まず開発に関しては、言語やツール、設計手法、プロジェクトの進め方などの決定権を、チームが持っています。組織は上下関係がなくフラットで、例えばリーダーも同じチームのメンバーであり、その中で技術を教えたり相談を受ける役割を担っています。開発に関して意見があればチームのメンバーは誰でも発言できますし、上司も「ではそれで進めよう」と言うことが多いです。
― 組織づくりも自己組織化の一環としてエンジニア自身が取り組んでいるとか。
高橋さん そうです。組織づくりに関しても、会社や上司がどんな提案もちゃんと正面から受け止めて汲み取ってくれます。それとシステム部内に委員会制度があります。これは、採用、広報、社内制度作成などを、自発的に参画したメンバーによる委員会で実行していくというものです。私は広報、大澤は採用の委員会に参画しています。広報の委員会では、全社広報と連携しながら、例えば今回の技育プロジェクトの申し込みや社内推進を担当しています。採用の委員会では、やはり人事部と連携しながら具体的に面接のプラン設計などを担っています。
― 今回の技育プロジェクトの参加は、現場のエンジニアの皆さんで決めたんですよね。実は協賛企業約40社のうち、現場のエンジニア主導で決めていただいたのは御社が唯一。何が決め手になりましたか。
高橋さん 今までは学生時代に育った人を採用する、かなり受け身な採用を行っていました。それに対して技育プロジェクトは、自ら考え、自分でものをつくる人たちを育てるというビジョンを持っていて、そこに共感しました。それに、主催されている御社の情熱を感じていて、シンプルに「このプロジェクト、面白そう!」と期待しています。