デジタル人材新卒研修のポイントと、経営層との合意
前回のnoteでは、デジタル人材新卒採用においてポテンシャル採用が拡がっているというお話をしました。一方で即戦力人材も居るため、新卒一括採用時代には考慮できないような大きなスキル差がある状態です。今回はこうした状況を鑑みたデジタル人材新卒の研修について注目し、お話をしていきます。研修についての勘案をすることで採用対象も逆算されることから、今から25新卒に向けての研修計画を開始することをお勧めしています。
OJTだけではならない研修
2020年頃までの自社サービスベンチャー企業では、手厚い研修をしないことが美徳とされている節がありました。新卒採用の選考基準としては、多少のスキル差よりも「自走できるかどうか」ということに重きが置かれており、一人でどこまで調べて自学自習、スキル研鑽ができるかという軸が重要視されていたため、ポートフォリオの提出なども活発化していました。
しかしその後、二つの事象が発生します。
一つはコロナ禍により課外活動が制限されたことでインターンやハッカソンといったスキルアップの動機付けとなるイベントが減少したことです。従来のオフラインでのインターンやハッカソンでは、自分のスキルの現在地を知るきっかけとなっていたため、その後の成長が著しい就活生を数多く見かけました。コロナ禍ではオフラインでのこれらのイベントはなくなりました。オンラインでの開催もなされましたが、スキルレベルだけでなくオンラインコミュニケーションスキルも兼ね備えた上位層しかこれらのイベントに参加機会がなくなってしまいました。
もう一つはある程度の成長を補佐する企業バックアップ体制が、学生側から要求される風潮の発生です。国内メガベンチャーから内定を貰える上位層であっても、自身の将来像がイメージできないと内定承諾に至らないという状態が起きています。下記の新卒を対象にしたマイナビ調べでも、企業選択をするポイントにおいて「安定している会社」が選ばれる傾向が年々高くなっており、23新卒では43.9%まで伸びています。安定性を感じるポイントの上位には「安心して働ける環境である」が1位となって居ます。安心して働ける環境の問いについては「社風が自分にあっている」というものが1位となっています。また、「研修が充実している」も4位につけています。これは近年の新卒就活生が重視する項目に「会社の雰囲気」が挙げられており、自身の働くイメージや成長イメージがつくことに重きが置かれていることに繋がっていると考えられます。。
今でも自走を重要視する企業は数多くありますが、就活生の希望とのズレが年々拡大していることから採用ができないギャップへとつながっています。こうした潮流も踏まえると、何らかの体系だった研修は採用の観点からも必要と言えます。
経営層は新卒に何を期待するかの言語化
研修を実施するにあたって経営層と合意するべき項目が「新卒に何を期待するか」ということです。これは採用要件に繋がるため、採用計画段階で決定しておくと望ましい条件です。いくつかのゴールイメージを元に見ていきます。
戦力化
実装者としての独り立ちをゴールとして設定する場合です。特にSIerやSESといったクライアントワークであれば、「一人月として満額をお客様に請求できる成長レベル」と設定することができます。かつてSESから事業が始まり、自社サービスが後から派生していった企業で同様の議論をしたことがありますが、「一人月として月額50万円がつくかどうか」という基準がありました。上位社員のサポートに頼らず、与えられたタスクを熟すためにはどういった行動とスキル、コミュニケーション能力が必要かということを言語化し、設定していきました。
幹部候補
自社サービスでよく見られるポイントです。これは先の戦力化とは違い、長めのビジョンを持つ必要があります。大手企業のCTO/VPoEの経歴を見ていくと、10年でCTOに就任するというケースが複数観察されます。様々な事業やポジション、場合によっては他国の開発拠点などを3年程度ごとに異動しながら徐々に視座やスキル、経験を伸ばしていくというものです。
こうした設計の場合、下記のような時間軸で「どのような状態になっている必要があるか」というマイルストーンを設定し、合意することが望まれます。
内定時
(内定者インターンや入社前課題を経た上での)入社時
研修終了後
入社後半年後
入社後1年後
入社後3年後
入社後10年後
これらを決定していくと、内定時にはどのようなレベルの人物を採用するべきかという人物像が逆算できるため、効率的な母集団形成や選考基準を作ることができます。
ペルソナ設定の補助材料として、既に活躍中の若手社員にインタビューをするということも有効です。あまり年齢が行き過ぎていると時代背景が違うため、参考にはなりません。20代のエース人材からピックアップをすることをお勧めしています。
新卒入社時研修のコンテンツポイント
続いて新卒入社時研修のコンテンツについてポイントをお話ししていきます。
全体研修
職種を問わず実施される全体研修です。開発者だけではなく、営業職やマーケティング職などが混在している状態が想定されます。
想定されるコンテンツとしては下記のようなものがあります。
経営層からの期待値の伝達
自社の社員としての研修
事業紹介、プロダクト説明
企業の歴史
事業部の構成
マインドセット
労務
評価
社会人としての研修
ビジネスマナー
アウトプットの方法論
ロジカルシンキング
質問の仕方
調査の仕方
特に前半パートに関しては、4月入社の中途採用人材と合同開催されることもあるでしょう。
他部署での研修、営業研修
新卒と第二新卒を比較した際、大きな違いとして挙げられるのがこの他部署での研修の有無です。第二新卒も含めた採用の場合、内定を出したポジションで早期に立ち上がり、バリューを発揮することが求められるため、このような他部署での研修があることはほぼ耳にしたことがありません。
しかし新卒の研修では他部署の業務体験研修は多くの企業で存在します。こうした研修を時間を割いて取り組むことには一定の意味があると考えられます。
他事業部を経験することによる、事業視点を持つ機会の創出
他部署の部門長に存在を示すことができることによる、将来的な抜擢可能性
配属前に同期との交流を持つことができることによる、将来的なコラボレーションの可能性
2点目については新規事業や昇格の際に、他部署の部門長からポジティブな認識を貰えることでスムーズに話が進んだケースがあります。
3点目についても、同期間で声を掛け合いながら新規事業提案が提出されたこともあります。
こうした他部署での研修について重要なこととして「何のために実施をするのか」ということを開発部責任者が新卒メンバーに頭出しするということがあります。かつて見聞した話として、合理性を求めた新卒が営業研修を集団でボイコットしたというものがありました。中長期的に自身のエンジニアとしての立ち居振る舞いにどう影響するのか、他部署からの評価のような打算的な話も含めて、しっかりとインプットする必要があります。
開発研修
いよいよ開発研修に入ります。ここでのポイントは二点あります。
一つはばらつきのあるレベル差です。ここ数年間の新卒は情報系学部の場合は特にAIやデータ関連の研究に振り切っている傾向があり、ものづくりの経験が少ない人材が多く見られます。一方で、大学近くのソフトウェアハウスや小規模なSIerで業務システムを作ってきたような、いぶし銀の人材も居ます。単純なスキルの高低ではなく、自社で求められるベーススキルを言語化し、その各スキルに対して得意・不得意を可視化する必要があります。
これらに対し、一律の試験を設けることは一つのポイントとなります。例えばギブリー社のSEスキル検定などは簡易なプログラミングスキルに加え、SQLの基礎知識や、基本情報相当の知識を問うことができ、得意不得意の傾向を見ることができます。こうしたテスト結果を踏まえて研修設計をすると効果的でしょう。
もう一つはチーム開発の経験です。自学自習で我流でプログラミングをしてきた人材や、小規模な開発会社・スタートアップを経験した人材の場合、コーディング規約やコードレビュー、Git-Flowを知らなかったり、マージ経験が無かったりする場合があります。新卒でチームを組み、小規模なプロジェクトをゼロから作ってみる経験も有効です。場合によっては先立って業務を経験している第二新卒を含めることも効果的です。
研修を内製化するか?外注するか?
こうした研修を内製化するか、外注するかという議論があります。実施する研修が数日間であれば内製も現実的です。研修コンテンツを公開している企業も複数存在するため、全くの手探りということも避けられます。
しかしコンテンツを入れ込んでいくと内製化では厳しくなってきます。大手SIerやコンサルファームを見ていると、専門の教育部署が存在しています。これから研修を検討するフェーズの企業では、専任社員をアサインすることは現実的ではないため、工数的にもコンテンツの品質的にも外注を視野に入れましょう。開発研修についても対応可能な企業は複数存在しています。
チーム開発の取り仕切りや、研修中のメンターを引き受けてくれる企業も存在していますので、比較検討することをお勧めします。研修コンテンツを外注することのメリットとして、受講者が「外部講師の方が引き締まる」という精神的な効能もあります。自社で必要となる要素を予め組み立てておくと見積もりも取りやすいため、まずはその骨子から組み立てるようにしましょう。