予算計画における新卒エンジニアの採用単価
新卒採用の中でもエンジニアついては年々通年採用の色合いが強くなっています。採用の加熱に伴い採用チャネルの多様化が進んでおり、採用予算の計画もまた年々難しくなっています。今回は中途採用と新卒採用の違いについて予算の観点から整理をし、予算計画の際に留意すべきポイントについてお話していきます。
中途エンジニア採用との違い
中途採用を中心とした採用をしてきた企業にとって、カジュアル面談や選考についてのイメージがついている組織は多いかと思います。新卒では特に能動的に動くことができる優秀層についてはインターン実施による早期接触や、内定承諾後の辞退防止といった前後施策が必要です。次に採用単価を左右する要素についてお話をします。
インターンとその母集団形成
学生との接触が早期にできるインターンでは、優秀層の学生に記憶に残りやすいだけでなく、体験の良いインターンは友人や後輩の紹介などにも繋がるためやったほうが望ましい施策です。
インターンについてはインターン期間に発生する金額や工数だけでなく、その前工程として説明会や1on1イベントなどを実施する母集団形成で発生するコストを計算する必要があります。
工数管理を詳細に求められる企業では、インターン生受け入れ時に発生した現場の工数をどう取り扱うかについて早期に社内で合意する必要があります。開発部につけてしまうと、自社サービスなどで開発部門が直接外貨を集めてこない組織であれば赤字が拡大することになるため嫌がられることが多いです。人事に集約し、社内売買をしながら全社按分することになると捉えています。
手掛けることが望ましいインターンですが、必ずしも参加した人たちが本選考に応募するわけではないため、計上する際には別枠の資料を作成して社内合意した方が良いでしょう。
本選考の母集団形成
インターンとは別に本選考の母集団形成を行うことが一般的です。学生へのアプローチも「インターンに来ませんか?」から「弊社に応募しませんか?」という話し方に変えていくことになります。
カジュアル面談や選考にかかる工数に加え、意向上げのための追加面談を実施している企業などもあります。追加面談は企業によっては候補者1人あたり5時間程度使う企業もあります。所謂「就活の軸」を共に見つけていく作業となりますが、他社と綱引き状態に陥ることも多いため、空振りするリスクがあります。主に人事採用担当者がアサインされることになりますが、結構な時間を使うことになるため計算に入れておきましょう。
選考後の繋ぎ止め
中途採用と異なり、新卒採用では内定承諾後辞退が多く存在します。理由としては他社入社だけでなく、大学院進学もあります。前者の他社決定については「他社の内定を持っているということはその企業のフィルターを通ったという証明である」として、積極的に内定を持っている就活生にスカウトをかけている企業があります。中にはライバル企業をリストアップし、声をかけている大手企業もあります。
こうした事態に対し、内定者アルバイトによって継続的な接触をするケースが多く見られます。あくまで内定者の自主的な活動となりますので強制はできかねます。中には内定者アルバイトに夢中になるあまりに卒業要件が足りなくなったり、先走って退学したりする方も居られます。
内定者アルバイト以外の方法では、1月に1回程度の面談を人事やメンターが実施することも有効です。近隣に住む内定者を集めて懇親会を開くことも有効です。こうした工数や費用についても勘案しておく必要があります。
新卒エンジニア採用手法別採用費
続いて採用手法別採用費について言及をしていきます。
ナビ媒体
能動的に情報を取ることができるアンテナの高い候補者は少ないです。これらのサービスが始まったのは1995年頃からになりますが、その時からの就活慣習に則って「とりあえず登録」する層が中心となります。総合職採用であれば違和感はありませんが、エンジニア採用となると採用増か育成ベースであれば可能です。ただし採用と並行して長めの研修、受け入れや育成体制を考えていく必要があります。
1on1イベント
サポーターズでもサービス展開をしている1on1イベントです。毎年上位数%~15%の優秀層が参加しています。他社も含めて一般的には1イベントあたりのレーン単位(1イベントあたり候補者に接触することができる枠)での費用発生となります。
どのイベントに、何レーンで参加するかによって費用が変わります。それ以外にも参加する社員の工数、場合によっては休日買い取りなども視野に入れて労務などと連携していく必要があります。
人材紹介
いわゆる成果報酬型の採用チャンネルです。かつての新卒人材紹介は学歴ベースで旧帝大、早慶上智、GMARCH、関関同立などのように偏差値別に金額設定が分かれていました。
しかしエンジニアに関してはこと在学中からのプログラミング習熟度やレベル感についての必ずしも偏差値が連動するとは限らない状態です。こうしたこともあり、偏差値別の金額設定ではなく、インターン経験の有無などによってエンジニアとしてのレベル別に分かれているケースも見られます。また、一部大手企業などでは企業側から一律で高額な金額設定を打診しているケースもあるため、中途採用のような人材紹介フィーの高騰に繋がっています。
自社の育成環境も踏まえ、どのレベルの人材を採用したいのかを決めたうえで、人材紹介各社から話を聞くことをお勧めします。
座談会
大学や地域単位で就活生を集め、10名程度が座っている卓を巡回しながら複数の企業が話をするというものです。私も何度か参加したことがあるのですが、企業の認知を拡げる手法ではあるものの、個人的には1回あたりの接触人数が多く時間も限られていることから就活生1人1人に向き合うというのは難しく感じました。短時間でいかに自社に興味を持ってもらえるかということに振り切ってプレゼンができると有効活用できるのではないかと感じています。特に自社の知名度が高い企業であれば効果的に運用できる可能性があります。
スカウト媒体
新卒採用でもここ数年はスカウト媒体が広がっています。中途採用であれば「良いところがあれば転職するかもしれない」という転職潜在層が多いのに対し、新卒採用では内定取得という明確な目標があるため返信率も高いです。
研究開発ポジションであれば大学や大学院での研究テーマをもとにスカウトすることも可能です。特に情報系以外の学生に対して自社の事業に親しい領域の人材を見つけやすいため、事業ドメインとの親和性を重要視して検索してみることもお勧めです。
安価に済ませる方法はあるか?
このように新卒採用であっても様々な経路があり、その費用感もまちまちです。費用を抑える方法も無くはありませんが、注意点も同時に存在します。
直接応募
自社求人サイトに対する候補者からの直接応募です。サービス利用料も、紹介フィーも発生しないというメリットがあります。
しかしこれには自社や自社サービスに知名度がなければなりません。そうでない場合は滑り止めにされるケースが多いので期待は禁物でしょう。
また、知名度がある場合であっても応募したくなる採用サイトの整備は必要です。社員インタビューやその撮影といった会社の雰囲気を重視して作り込んでいくと300万円〜は覚悟しておく必要がありますし、動画撮影を本格的にすると更に金額が行きます。
近年ではアドネットワークを利用した採用マーケティングなどもあり、母集団形成に向けた導線をマーケターと作り込まなければ、特に何も起きないのもまた直接応募の特徴です。
リファラル
新卒入社した社員や、若手社員からの社員紹介です。リファラル奨励フィーを制度化している企業もありますが、他の採用経路に比べて採用単価は安価になります。
新卒の場合、多くはサークルやゼミの後輩が紹介されることになります。人物面や知識も含めたバックボーンは紹介者によって担保されるため、カルチャーマッチや定着に期待できます。
ある企業ではリファラル経由の入社を3割程度まで拡大した結果、大幅に採用コストを下げることに成功していました。しかし良い点ばかりではありません。明確な上下関係が存在する学校の先輩・後輩のつながりを維持した状態で入社があるため、社内から多様性が失われる傾向が発生していました。バックボーンが重なりやすいが故に、あまり振り切りすぎるのはお勧めしていません。
学校訪問
人事担当者による学校訪問です。現在多くの企業が学校訪問に注目しており、学校によっては企業問い合わせが捌けないほどの状態になっています。明治時代から存在している「教授推薦」の延長上に存在しています。大学から推薦された形式になるため、人物面の確からしさも期待されています。
ある地方大学では就職を希望する学生の殆どが学校訪問に来た企業で決めていました。お話をお伺いしたところ、企業からやってきた教員が中心となって取りまとめており、学校のフィルタリングを通して企業がサーティフィケートされている状態になっていることから安心して選んでいるとのことです。むしろ直接のスカウトなどは警戒し、嫌っている状態でした。
学校訪問についてもいくつか注意点があります。代表的な3点についてお話します。
1点目は紹介される学生の質についてです。高専でよく見られるようになった事象ですが、従来の高専生は学校推薦で就職先を決める傾向にあったため、優秀な学生が企業に紹介されていました。しかし現在は情報感度が高い学生ほど自主的に就活を行うことから、学校経由で紹介される学生の質に疑問を抱く企業の声を聞くようになってしまいました。一つ期待値調整として留意する必要があるポイントです。
2点目は就職率に拘りすぎる大学について、企業の質を見ていない場合があるというものです。毎年進学率に対して大々的に宣伝しているある私立大学があるのですが、進学率を高めるために就活時期後半になるとまだ内定を持っていない学生を地元のスーパーなどに強制的に送り込むということをしていました。この大学に問い合わせをしてみたのですが、求人の質には興味を持ってもらえなかったことがあります。決まりやすい大量採用企業であれば耳を傾けてくれたかも知れません。
3点目は全ての大学が就活支援に興味を持っているわけではないという点です。もちろん「学生には是非長く働ける確からしい企業を選んで欲しい」という就職課はあります。ただし、大学と強く癒着している大手企業グループがあるケースであったり、学生の自主性を重んじすぎて「自己責任のため関与していません」と言い切る学校もあります。中には就職課自体が存在しないところも確認できました。
これらを総合していくと、企業が問い合わせ窓口に連絡を取れば話を聞いてくれる学校ばかりではありません。社員の母校をリスト化して「社内に活躍している人材が居る」という理由をつけて問い合わせたり、OBOGや学会などをきっかけに個別に教員と仲良くなって就職課にアプローチするなどしていく必要があり、全ての企業が真似できるアプローチ方法とは言えません。
学生団体等主催の説明会
近年、「ITエンジニアになりたい人」を集めたサークルや学生団体があります。グループ内勉強会やハッカソン、あるいは団体でのコンテスト応募、学内イベントWebサイトやアプリ開発など様々な活動パターンがあります。
一部の団体では企業との合同LT大会を主催しているところもあります。団体運営費用などでいくらか費用が発生しますが、企業体ではないので安価に済むケースがあります。複数企業が合同LT大会をしているケースや、そこからの就職実績があるところもあるため、考慮していくと良いでしょう。
ただし一部の団体についてはあくまで有志で行っているため、外部から問い合わせをしてもなかなか連絡が取れない場合もあります。確実性としてはあまり期待しすぎるのは良くない場合があるので注意が必要です。
採用単価には内定承諾辞退を加味しよう
当然辞退が発生するほど一人当たり採用単価は上昇します。私の経験では10人居たら1人が辞退します。ただし企業の風評などによっては全員が内定承諾後辞退したケースもあります。複数年様子を見ながら内定承諾後辞退率を決定することをお勧めします。
自社のフェーズや予算と合わせた採用手法
新卒採用の予算を決める上で、下記の項目を経営層と合意した上で予算計画を詰めていく必要があります。
新卒への期待、新卒採用をする理由
新卒に求めるレベル感
エンジニア志望の就活生に対する自社の認知度
入社後だけでなくインターンや内定承諾者インターンも含めた現場の受け入れ体制
研修体制と研修プラン
また、採用目標人数についても入社予定者のレベル感は全くの未知数であるため、数を追うのではなく自社の基準を満たすかどうかを追うことをお勧めします。そのためにも採用目標人数はむしろ予算計画のための最大値と据えるのが良いでしょう。
これらの要素を加味しながら各施策の優先順位をつけながら段階的に取り組みましょう。